新年度と同時に新社長やCEO(以下CEO)が発表された企業では、今はまさに株主総会で就任が承認された時期ではないでしょうか。新CEOを迎えての経営が本格的に始まり、新しい事業計画や社内体制の刷新など発表すべきことが多くある時期でしょう。新CEOはこれまでの伝統をどう継承していくのか、それともディスラプターとして新しさ、独自色を出していくのか、社員をはじめとする多くのステークホルダーが首を長くしてメッセージを待っています。

エデルマンが世界28か国で毎年実施している信頼度調査「トラストバロメーター」2018年版によると、CEOに期待することとして「会社の利益の向上、株価の上昇」と答えた人が日本では58%、海外平均では60%である一方、「会社が信頼されるように努める」と答えた人は実に日本で72%、海外平均でも69%です。いまや信頼の構築は株価上昇以上にCEOにとって重要な仕事であると認識されているのです。

エデルマンでは、新CEOが着任してから約90日の間に幅広いステークホルダーにリーダーシップを示すための広報活動の道筋を「90 days プラン」と呼び、実施を推奨しています。そのハイライトを以下にご紹介します。

First 30 days(就任1か月目): Why him/her? 「なぜこの人物がリーダーなくてはならないのか」を伝える

着任したばかりのCEOにとって、今後の具体的な経営施策や数値目標についてはまだ話せないことが大半です。ここで示すのはリーダーとしての「パッション(=着任に伴う決意、舵取りを担う責任、熱意など)」と「コミットメント(=今後の大まかな方向性、1年後、3年後どんな姿を目指したいか、特に力を入れたい改革領域など)」で十分です。「なぜその人物であるべきか?(=どんな強みの発揮を期待されているか?)」も明確に伝えます。メッセージ発信のチャネルは、タウンホールミーティング、メディアとのインタビュ―、ウェブサイト、ソーシャルメディア(社外向けSNS、社内向けSNSやイントラネット)、ウェブサイトを網羅しましょう。社員向けビデオの作成は、「顔の見える」コミュニケーションとして国内外の社員の信頼を得る方法として近年好評です。写真撮影を含めたバイオのリニューアルは、グローバル企業のトップ就任時の意識付けに効果が高いです。キーメッセージに基づいたFAQの準備は必須です。社員向けサーベイで「新CEOや会社に期待すること」「改善してほしいこと」を尋ねるのも良いでしょう。

Second 30 days(就任2か月目): Actions taken so far 「進んでいる感」を伝える

最初の30日で方向性を示した後、早速アクションを起こしている姿を見せましょう。売上に纏わる成果を示すにあたり1~2か月は短すぎますが、「各地域の事業所を回りました」「XX名の社員にヒアリングしました」といった情報は積極的に公開しましょう。Done is better than perfect.(完璧を目指すよりまずは着手!)です。これらの進捗も、ブログ、SNSなどでこまめに絶え間なく見せていくことが重要です。重厚長大なコンテンツ作成に時間をかけるより、ステークホルダーからのポジティブフィードバックをコツコツ集めてこまめに公開しましょう。CEOの就任に伴うFAQの準備も継続的にブラッシュアップする必要があります。取材などでの答えにくい質問に対しては、「今公開できる範囲で最大限の」情報を提供するようにします。避けるべきは「ノーコメント」です。

Third 30 days(就任3か月目): Achievements and Vision 「成果とビジョン」を示す

就任3か月の時点では「有言実行」ぶりをステークホルダーに見せることが重要です。この3か月で獲得した、あるいは獲得を見込んだ新規ビジネスについては、メディアとの取材などで可能な限り言及しましょう。懸念されていた事業リスクに対する手立てを打ち始めている姿を見せることは投資家の安心にもつながります。メディア向け事業戦略説明会を開催するのも良いでしょう。新体制における具体的な中長期ビジョンもここで盛り込みます。就任以降の顧客の声、社内の声も積極的に拾って公開しましょう。社員向けサーベイを再度実施し、就任後の変化を数字で示せると説得力が高いです。ステークホルダーにPDCAサイクルを回している様子を発信し、成果が可視化できればステークホルダーからの良い反応も期待できることでしょう。

企業広報の究極の目的である「コミュニケーションを通じて信頼を築き、ビジネス課題の克服に貢献する」ことの実現において、新CEOの「90 days プラン」の策定と実践ほどダイナミックに成果につながっていることを実感できる機会も珍しいと言えるのではないでしょうか。

エデルマン・ジャパン コーポレート・プラクティス アカウント・スーパーバイザー 浅見晃子