PR業界で働いてかれこれ10年以上もたちましたが、いまだにPR会社でやっていることを友人や家族に説明するのが難しいです。時間がないときは「お客様の広報を代理で行う仕事をしてます」というのですが、相手はまったく何のことか分からないでしょう。まず日本ではPRという言葉が広告や宣伝に近い意味として使われる「PR」と思う方が多いです。「これもっとPRしてよ!」のような言葉が使われた場合は、大抵もっと「宣伝」してよというような意味で使われることがほとんどで、本来のPRの意味を理解している人はいまだに少ないと思います。

自分がPRのすごさを実感した本に「戦争広告代理店」というのがありますが、これは正しくは「広告代理店」ではなく「PR代理店」の話です。この本の中ではPR代理店が世論や国を動かしていく過程が書かれています。PRには良くも悪くも力があるんだということを思い知らされた本です。PRとはPublic Relationsの略で、企業や組織が、「パブリック」つまり会社や組織が置かれた環境を取り巻く関係者(PR用語ではステークホルダーと言います)と相互に恩恵のある関係を築いていくコミュニケーションの仕事です。

会社や組織には必ず何かの存在理由があって存在するはずです。その存在理由をパブリックに伝えて、会社や組織が目指す方向に向かえるように世の中や周りの環境を動かしていく仕事と言えば少しは分かるでしょうか。周りを動かしていくには、自分がまずどんな人でどんな価値をもっているかを分かってもらい、信頼を得る必要があります。そのためには分かりやすい言葉で、できるだけ専門用語を使わずに、自分の価値を伝えなくてはいけません。それを伝えるには、その価値を分かってくれる人を探して、どういう手段を使えばその人に伝えることができるか考えなくてはいけません。

また相手に信頼してもらうには実績なども見せなければなりません。どんな実績を見せれば相手は信頼してくれるのでしょうか。さらにいまは、テクノロジーの進化により、テレビよりも、スマホを使って情報を得る人が多いので、どのようなサイトにどのような形で情報を伝えればメッセージを届けることができるでしょうか。そういったことを、担当するお客様のために一生懸命に考えて、お客様が目指す方向に向かえるようにお手伝いをさせて頂くのがPR代理店の仕事です。

人に情報を伝える手段や方法は、新たなテクノロジーの登場や時代の変化により変わっていくので、それにあわせてPR代理店も変化していくことが求められます。実際、従来のPR代理店の仕事はマスメディアの記者に情報を伝えて、マスメディアが持つリーチ力を使ってお客様の情報を伝えることが主な仕事でしたが、メディア業界の大きな変化により、マスメディアだけでは情報が伝わらなくなりました。どこでも情報が調べられるスマホの普及とソーシャルメディアの発達により、企業や組織自らがメディアとなって、マスメディアの力を借りなくても消費者に直接情報を伝えられるようになりました。

そのため、今のPR代理店の課題は、人々に情報を伝えることができる様々な情報チャンネルが持つ強みと弱みを理解した上で、それぞれのチャンネルで適したコンテンツやコミュニケーション活動を展開するのと同時に、ネット上から得られる消費者の様々な反応を分析して、コミュニケーションの内容や方法を調整していくことです。ある目的を達成するためには何を伝えなくてはいけないのか、誰に伝えれば情報が広まりやすいのか、伝える情報は文章がいいのか、画像がいいのか、動画がいいのか、1日の何時の時間帯に情報が見られやすいのか、消費者に情報が届いていることをどうやって計測するのかなどなど、考えなくてはいけないことは一杯あります。メディアがシンプルな時代が懐かしいなんて言ってはいられません。

とてもチャレンジングな仕事ですが、様々な課題を乗り越えて、結果を出せた時の達成感とやりがいは非常に大きいと思います。しかもPR代理店に依頼がくる仕事は、まだ世の中であまり知られていない最先端の取り組みや技術などが多いため、誰よりも早くそれらに触れられるというワクワク感があります。そして今、あらゆるコミュニケーションの現場においてPR的なセンスがないと、なかなか信頼を得ることが難しくなっており、PR会社がこれまでの強みを活かして、企業や組織のコミュニケーションをリードしていく時代になっていると確信しています。

エデルマン・ジャパン シニア・アカウント・マネージャー 中田清光