>> ESGシリーズ第2弾(第1弾はこちらから)

緊急事態宣言の次はまん延防止等重点措置。営業時間短縮や飲食店への罰則の適用など、「徹底した見守りが大事」とのことだが、私たちは「誰」の「何」を見守るべきなのだろう。この1年、コロナ禍の失業者の7割近くが女性だと言われている。小売業やその他のサービス業で働く労働者に占める「非正規雇用」の女性の割合が高いことが原因だと専門家は指摘している。このような働き方は基本的にはパートタイムで、給料や手当も少なく、雇用の保障も殆どないとのこと。失業に関連して、日本女性の自殺も急増していることを受け、Forbes JAPANは「日本『特有の悲劇』が顕在化した」と指摘している。この10年間、ウーマノミクスだ、女性管理職比率30%だ、M字カーブの解消だ、すべての女性が輝く社会づくりだと言って、日本企業が頑張ってきた成果が、大きさわずか0.050~0.2 μm(マイクロメートル)の小さなウィルスによって打ち壊されたのだ。何故、こんなにも脆弱だったのか。そして、日本企業がこの脆弱性を克服するための修正パッチはあるのだろうか。

ESGの中で最も判りにくいのが真ん中の「S」である。脱炭素を中心とした気候変動対策などの環境問題(E)と企業のガバナンス(G)は直感的にも判りやすいが、「S」は「社会(Society)」だと言われても、広すぎてなかなかピンとは来ない。経済環境や政策動向によって社会課題そのものが変化していくことも定義を難しくしている。それ故に、目標の立て方も、トラッキングする指標も、漠として曖昧なものになりがちである。ここで改めて認識したい点は、社会問題(行政の政策課題)と経営課題は表裏一体だということである。2011年には欧州連合が、CSRを「企業の社会に与える影響に対する責任」と定義しており、企業には、環境や社会に対して起こりうる不都合な影響を確認し、回避や緩和する責任があることを明確にしている。

CSR報告書のガイドラインであるGRIスタンダードは、大和総研が発表したレポートによれば、概念的に「S」は ①労働者に関する雇用や労使関係、②サプライチェーン等の人権リスク、③製品責任等の消費者課題、④地域社会との関わり、⑤公正な事業慣行やコンプライアンス、の5つに整理できるとしているが、世界の投資家もその動向に注目しているGPIF 年金積立金管理運用独立行政法人はもっとシンプルに「ダイバーシティ、サプライチェーンなど」とまとめている。

では一例として、「ダイバーシティ」について日本企業が世界からどのように評価されているか見てみよう。上場企業が取り組むESG活動の取り組みの中でも常に上位に位置しており、日本国政府の「SDGs実施指針」にも明記されているが、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数2021が示している通り、日本の評価は156か国中120位と低く、依然としてG7の中でも最下位という結果になっている。またBloomberg社が集計しているデータ(下図、経済産業省資料より)では、女性管理職比率の開示3.1%、従業員マイノリティ率の開示0.1%、男女間賃金格差の開示0.0%と実質ゼロが並んでおり、日本企業は指標の開示すらできていないことが世界中に晒されてしまっている。これでは、透明性が重要視されるガバナンスにおいても、都合の悪い数字を隠そうとする企業風土なのか、とアクティビストに邪推されかねない。

ESG Blog 2-2

また、「女性管理職比率の目標30%」のような表面的な数字のみを追求し、女性活躍を達成するための根本的な手段を講じてこなかったのではないか、と感じるのは私だけだろうか。そう感じる理由として、ダイバーシティの本質を捉えているように思える2つの事例を紹介したい。

1つ目は、日本企業で唯一「World's Most Ethical Companies(世界で最も倫理的な企業)」に14年連続で選定されている花王である。ご存じの通り、花王はガバナンス(G)に定評があり、昨年12月には環境(E)への取り組みを評価する国際非営利団体CDPが日本企業初のトリプルA企業に選定している。そんな花王が、2021~25年度のグループ中期経営計画の中で新たな目標の一つに掲げたのが「社員活力の最大化」である。いわく、「ワクワクした社員」によって会社が成長する人材活性化制度を導入するというのだ。そして2つ目はソフトバンクである。「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、「すべてのモノ、情報、心がつながる世の中を」をコンセプトに、5G、IoT、AIなどのテクノロジーを活用したSDGsの取り組みを推進している同社は、今年1月、世界の代表的なESG投資の指数「FTSE4Good Index Series」と、2017年より新たに設定された日本企業に特化した「FTSE Blossom Japan Index」の構成銘柄に初めて選定されている。

つまり、女性の就業率や管理職などの数値目標を設定しただけでは結果に繋がらないという点に真摯に向き合い、根本的な課題解決に向けた制度やテクノロジーの導入や普及を目指さなくてはならないということを、花王やソフトバンクの事例は示しているように思う。その観点で言えば、働き方の多様性を生むリモートワークやフレックスタイムの導入は、コロナ以前から推進できたはずである。また、失業や自殺のニュースを目にする度に、今回のような突発的な不況下で「雇用死守宣言」をし、自動車産業の崩壊に歯止めをかけたいとファンド設立を決めたトヨタの取り組みの意味の大きさを感じずにはいられない。

先日発表した「2021 エデルマン・トラストバロメーター」によると、日本ではグローバルの調査結果と同様に、コロナウィルスに感染することより失業することの方を怖れていることが明らかになった。そのような状況下で、日本での「雇用主に対する信頼」は世界でも下から2番目と低く、この1年で顕著にポイントを下げている。

ESG Blog 2-3

まだまだ先の見えない日々が続く中、日本企業は雇用主に対する信頼を獲得するために、

  1. 従業員ファーストの定義や宣言
  2. 多様な働き方を促進する制度導入と、その活用・利用奨励のための活動
  3. デジタルトランスフォーメーションを活用した、所属意識の強化や孤立感を防ぐコミュニケーション・プラットフォームの構築
  4. 1~3の活動の対外発信

などを推し進める必要があるだろう。

エデルマン・ジャパン 佐藤英子(監修 宮崎陽介)