ネコ派か、イヌ派かと聞かれたら、個人的に私は断然ネコ派です。自然とそういうニュースには敏感になり、今やFacebookのタイムラインは猫だらけ。メディアでも、「ネコノミクス経済効果2兆円超の試算も」とか、「超なつかしい!なめ猫の写真、画像集☆再ブームか?」と騒がれていますので、なにやらネコの時代になったという風潮も、個人的には嬉しい限りですが、広報の観点から言うと、私はイヌ派を目指したいと思っています。え?どういう意味か?順を追ってご説明します。

まず個人的な観点からお話しましょう。

ネコ派を代表して… というつもりはありませんが、個人的に、ネコは理屈抜きに可愛いです。もちろん飼うとなれば、「散歩しなくて良い」とか、「シャンプーなどの衛生管理も手間がかからない」とか、「音の面で隣近所を気にしなくて良い」とか、そういう理屈で説明できる部分もあると思いますが、ただ純粋に「なでなで、もふもふ、ぷにぷにしたい!」という感情的なところでハートを掴んでしまっているので、基本的には理屈で「説明」できるものではありません。飼っていない人にとっても、ネコは写真や動画で見るだけで十分に癒してくれます。はい、もう一瞬で骨抜きにされてしまいます。

しかし、きっとイヌ派の皆さんも、「犬だって理屈抜きに可愛いんだ!癒しだ!」とおっしゃるでしょう。その通りだと思います。私もイヌ嫌いという訳ではないので、とても良く判ります。間違いなくイヌも可愛いです。でも、だとすれば、イヌ派、ネコ派の分岐点はどこにあるのでしょうか。ここでは飼う・飼わないを不問にして考えると、前述した理由は一旦横に置いて、それ以外の視点を考える必要がありそうです。そのあたりをものすごくざっくり整理してみると、下表のようになるのではないかと考えました。

【表】 イヌ派・ネコ派の理由とその分岐点

【表】 イヌ派・ネコ派の理由とその分岐点

どうでしょう。何となくしっくりきますでしょうか。一番右の社会的なニーズに対応する理由は、ちょっと意味が判りにくいかも知れませんが、時代や国境に左右されない普遍的な価値観や信念みたいな部分に相当する階層です。ここが分岐点となって、イヌ派は『忠実で勇敢な犬の気質や、人間や社会の役に立とうとするそのひた向きな姿勢』に共感し、ネコ派は『ツンデレで、自由気ままなネコの生き様』に自分自身を重ね、無意識のうちに、イヌやネコを「自分が理想とする生き方」のように見ていると考えられます。少なくとも個人的には、すごく当たっていると思います。

次に広報の観点からお話します。繰り返しますが、個人的にはネコ派の私も、広報の観点ではイヌ派を目指したいと思っています。

広告と広報の違いについてはこちらをお読み頂ければ判ると思いますが、広告はその性質上「たくさんの人が見る・通る場所」にお金(場所代)を払って出稿させてもらうという発想をします。だからこそ、番組の視聴率や駅などの交通量のように、どれくらいの人が集まるかが重要になります。ネコがいる駅やカフェは非常に多くの客足を集め、ネコが出ているSNSやウェブのコンテンツは非常に多くのエンゲージメントを獲得します。なのでそこに広告を出せば、認知や好意を得る可能性が高いと言えます。それなりに費用(出稿料)がかかりますが、そういう意味では、オンラインもオフラインも、ネコたちに軍配が上がります。

しかし、広告塔としてこんなにパワーのあるネコでも、決定的にイヌに負けていることがあります。それがストーリー性です。

具体例を考えてみましょう。忠犬ハチ公の話はハリウッド映画にもなったためか、海外にも多くのファンを持つほど有名です。南極物語のタロとジロ、フランダースの犬のパトラッシュ、名犬ラッシー、刑事犬カール、その他どうでしょう。イヌには、親友と呑みながら熱く語らうような感動的なエピソードや、子供たちに教訓を以て伝えたい名場面があるのではないでしょうか。親の世代から孫・曽孫まで、時代を超えて語り継がれるエピソードと、自分の人生観に影響を与えるようなドラマが、ネコたちにあったでしょうか。

共感することで、人は見たくて見る、誰かに見てもらいたくてシェアする、そしてその能動的な行動の連鎖が話題を作る。イベントも広告の発想ではその定員が最大リーチとなりますが、そこでの体験をシェアし、話題にするからこそ、より多くの人の耳に届く訳です。そのシェアし、話題にする行為が広報の発想であり、お金で買えない(アーンドな)波及です。このアーンドな波及力については、イヌたちの圧倒的な勝利と言えるのではないでしょうか。同等の波及力を広告だけで起こそうとしたら、莫大な予算(出稿料)が必要ですから、自ら話題にしてもらうことが如何にプライスレスか、一目瞭然です。もちろん始めから有名な話というものはなく、誰かがどこかで発掘しプロデュースするから話題は起こるのです。そういう意味では、もしかしたらネコにも、まだ世に知られていないドラマが眠っているのかも知れません。

さて、イヌとネコの話を企業やブランドに置き換えて考えてみましょう。

皆さんの会社や商品・サービスには、どんな逸話がありますか。そのエピソードを通してどんな気質や姿勢が、消費者あるいは社員に共感されていますか。広報道に身を置く私たちとしては、どのようなストーリーを発掘し、プロデュースさせて頂けるでしょうか。またそうすることで、単なる認知の獲得ではなく、ブランドと消費者のリレーションをどのように深めることができるでしょうか。単なる好意の追求ではなく、企業とその社員のリレーションをどのように強固なものにして行けるでしょうか。きっと、未発掘のドラマがたくさん眠っていることでしょう。

エデルマン・ジャパン ストラテジー・ディレクター 宮崎陽介