日本人選手の活躍から連日目が離せないリオデジャネイロ五輪ですが、早いもので残すところあと数日となりました。政情不安、ジカ熱、高い犯罪率など問題が山積みのブラジルですが、2年前のワールドカップと同様、なんとか無事すべてのプログラムが終わることを期待しています。その後はいよいよ2020年、東京にて五輪開催ですが、果たして今後、スポーツマーケティングの潮流はどのように変化していくのでしょうか。ブラジルフリークの私、浅見が約1年前の昨年8月、サンパウロオフィスを視察してきましたのでこのブログにてご報告するとともに、最新のスポーツマーケティング事例についてもご紹介したいと思います。
企業にとって「五輪」とは?
企業が五輪に関わる広報活動を展開する際のゴールは「五輪に関わることで企業のブランド価値を高める」ことだといえるでしょう。国際オリンピック委員会(IOC)はこれを「レガシー」と呼んでおり、「五輪がもたらす長期にわたる、特にポジティブな影響」として重視しています。弊社サンパウロオフィスの五輪担当のスタッフも「レガシー」という言葉を頻繁に使っています。IOCは、五輪・レガシーの分野としてスポーツ、社会、環境、都市、経済の5分野を挙げており、企業の広報活動の成功はまさに「経済」分野における大きなレガシーといえます。
例えば、五輪での広報活動により、従来の「化学製品メーカー」が「世界が直面する課題の持続的解決に取り組む企業」というブランドイメージをより強固にできれば、あるいは「赤ちゃん用品メーカー」が「信頼のおけるヘルスケア企業」に生まれ変われれば、各々の業界内におけるThought Leadership(ソートリーダーシップ:自社が得意とする専門分野の専門知識を披露することで、業界内外の信頼や評判を高めること)が確立できたことになり、五輪広報の成功を意味するでしょう。
五輪に関わる広報活動は“Don’ts, Don’ts and Don’ts”!?
ではどの企業も、五輪というまたとない機会を活用してユニークかつクリエイティブな広報活動を展開してよいのでしょうか?答えはNOです。ワールドワイド五輪パートナー、東京2020五輪ゴールドパートナー、東京2020五輪オフィシャルパートナーには、五輪に関する知的財産の排他的な商業的利用権が与えられており、スポンサー以外の企業は、ロゴの使用はもちろんのこと、「2020へカウントダウン」や「リオから東京へ」などのフレーズを宣伝・広報活動に組み込むことは許されません。このような便乗行為はスポーツ・マーケティングの世界ではおなじみの用語「アンブッシュ・マーケティング」として、厳しく禁じられています。
エデルマン・ブラジルオフィスが手掛けるスポーツ・マーケティング
弊社ブラジルオフィスが支援している面白い試みは枚挙に暇がないですが、過去のいくつかのスポーツ関連イベントに際して企画・実行された事例をいくつかご紹介します。あるグローバル電機メーカーは、ゲームアプリを開発し、どのように自社の提供するインフラがイベント運営に貢献しているかを遊び感覚で伝えるというユニークな試みを実施しました。グローバル化学メーカーは、サステナビリティへの取り組みを広く訴求すべく、TwitterやYouTubeなどデジタルプラットフォームを活用したキャンペーンを展開しました。グローバルヘルスケア企業は、スポーツイベントの期間とその前後にわたり、消費者に医療ニーズを伝えるため、ブラジルの主要10都市以上での啓発活動ツアーを実施し、デジタルプラットフォームの活用や動画制作も同時に行うことで、オンライン・オフラインのあらゆるコミュニケーションチャネルを駆使したキャンペーンを成功させました。
危機管理コミュニケーションにおいては、様々な企業がイシューマッピング(スポーツイベント中に発生しうる問題をあらかじめ列挙してカテゴライズし、それぞれのリスクレベルの高中低を評価し有事に備えること)を行い、状況に即したメディア対応のマニュアルを策定しました。公衆衛生上の問題についても、ヘルスケア関連組織などが啓発活動のアプリを作成したり、問題に対する正しい理解を促進するためにメディアへブリーフィングを行いました。
日々刻刻と変わる情勢においてスポーツ・マーケティングをリードするにあたり、コミュニケーション戦略の迅速な立案と柔軟な変更は欠かせません。その一方、さまざまなシナリオを考慮し、企業ブランドの価値を最大化するために攻めの広報・守りの広報の双方を実現することは、まさにコミュニケ―ション・コンサルティングの醍醐味といえるでしょう。
また、消費者やパートナー企業が五輪についてどのような意識を持っているのか、何をスポーツイベントに求めているのか等を早い段階で正しく知っておくことは、広報戦略立案の重要な土台です。その際は調査を専門とするグループ企業 エデルマン・インテリジェンスが力強いサポーターになってくれるでしょう。テレビCMでイメージキャラクターを露出させる「宣伝活動」のみが世界を動かす時代は、終わりを迎えつつあります。スポーツにまつわるコミュニケーション活動において、エデルマンのグローバルネットワークが存分に生かされ、世界中のコミュニケーション・コンサルタントが培ったスキルとナレッジが力を発揮する場面が増えていくでしょう。
Edelman Significaのカルチャー
最後に、弊社のサンパウロオフィス(Edelman Significa)についても少々触れたいと思います。総勢200名を超える社員が所属しており、パブリック・リレーションズに関わるサービスとマーケティングに関わるサービス両方を余すところなく提供するオフィスです。日本オフィスでもPRとマーケティング、PRとクリエイティブ・デジタルの壁を超える試みがここ数年進められていますが、その進化形と呼ぶにふさわしいワンストップサービスの事例をたくさん目にすることができました。
ポルトガル語が公用語の国ですが、サンパウロオフィス内では、英語はもちろんのこと、ブラジル以外の国から来たスタッフもポルトガル語が非常に堪能なことに驚きました。また、多くのスタッフが18時台に“Tchau!”と言ってオフィスを優雅に去っていく姿は見習いたいものです。
ユニークだと思った点は、記者を訪問しクライアントのビジネスについて説明するいわゆる「メディアキャラバン」ではかならずランチを共にするとのこと。「15時から15時半の30分だけお時間を頂けませんでしょうか…?」と忙しい記者に遠慮がちにアポをとり、なるべく短時間で済ませようとする日本のメディアリレーションとは対照的です。Face to Faceの時間をじっくり取って交流を深めることが重要なようですね。サンパウロのスタッフとはほぼ毎日ランチに出かけ、さまざまなレストランの「ブラ飯」(ひとつの皿にビュッフェ形式で豆、野菜、肉、ライスなどを盛るご飯を日本人はブラメシと呼んでいます)を堪能しました。近々、陽気なブラジル人スタッフ達から最近の仕事についてアップデートを聞けることを、楽しみに待っているところです。
※このブログの内容に関しては、公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会様にも確認をいただいています。
エデルマン・ジャパン シニア・アカウント・エグゼクティブ 浅見晃子